自己効力感——「自分にはできそう」の見込みが行動の開始と継続を左右する
「どうせ自分には続かない」と思うと、実際に手が止まる。始めて続けられるかは、意志の強さより「自分にはできそう」という見込み(自己効力感)で決まりやすい。204件の実験をまとめた分析と、その見込みを育てる4つの入口をまとめました。
ジムの年間パスを買ったのに、行ったのは最初の三日だけ。四日目の朝、「どうせ自分には続かない」と布団の中でつぶやいて、そのまま二度寝する。
似た覚えがある人は、少なくないと思います。
私は、やる気や根性が足りなかったのではなく、始める前に「続かない」と決めてしまったことが原因だと考えています。
「自分にはできそう」という見込みを、心理学では自己効力感と呼びます。これを育てる方法も、研究でいくつか示されています。
「できそう」の見込みが、行動を動かす
自己効力感(self-efficacy)を提唱したのは、心理学者のアルバート・バンデューラです。
1977年の論文で、彼は「自分はこの行動をやり遂げられる」という見込みが、行動を始めるかどうかに関わると整理しました。
さらに、努力の量や、うまくいかない時の粘りにも影響するとしています。
同じ力を持っていても、「できそう」と思える人のほうが、手をつけやすく、続けやすい。
気の持ちようの話に聞こえるかもしれません。でも、見込みを動かすと行動も動くことは、実験でも調べられています。
2016年、シーランらは204件の実験をまとめて分析しました。人の態度、まわりの空気、自己効力感に働きかけ、行動がどう変わるかを見たものです。
自己効力感を高める働きかけでは、「やろう」という気持ちに中くらい、実際の行動に小〜中くらいの変化がありました。3つの中では、行動への効きめが最も大きかったのは自己効力感でした。
ただし、効果の大きさは「小〜中」です。魔法ではありません。対象も健康にまつわる行動が中心なので、どんな行動にも同じだけ効くとは言えません。
それでも、見込みは後から高められ、行動も変わりうる。そう読める結果です。
「意志力」「能力観」「なりたい自分」とは違う
自己効力感は、似た言葉と混同されがちです。どれも「前向きな気持ち」に見えますが、指しているものが違います。
1つ目は意志力(自制心)です。「今この瞬間、誘惑にどれだけ耐えられるか」という、いわば力の残量です。自己効力感が見ているのは残量ではなく、「この行動をやり遂げられそうか」という先の見通しです。
力に余裕があっても「どうせ無理」と思えば、手はつきません。見通しが立てば、少ない我慢でも始めやすくなります。「意志力は使うほど減る」という通説も、いま揺らいでいます(「意志力は使うほど減る」説)。
2つ目は能力観です。「能力は生まれつきか、努力で伸ばせるか」という、物事全般に対する考え方です。
自己効力感は、もっと身近な感覚です。「この行動を自分がやれそうか」という、目の前の一歩だけの感覚です。「能力は伸ばせる」と信じていても、今朝のジムを「行けそう」と思えなければ体は動きません(成長マインドセットは効果が小さい)。
3つ目は「なりたい自分」(自己像)です。「自分は走る人だ」は自分がどんな人かの話、「自分は10分走れそう」は何ができそうかの話です。見ているものが違うので、両方が関わってきます。
走る人だと思えても、今日の10分が重ければ足は止まります。逆に、一歩の手応えが積もって自己像が固まることもあります(『する』より『なる』)。
自己効力感は、行動ごとに一つずつ積み上げるものです。気持ちで念じても裏づけがないので、すぐ揺らぎます。言葉よりも、小さな「できた」体験のほうが効くと考えられています。
「できそう」を育てる4つのきっかけ
では、その見込みは何から育つのか。研究は、4つのきっかけを挙げています。
- 成功体験:自分で小さくやれた、という手応え
- 代理体験:似た立場の人ができているのを見る
- 言葉の後押し:まわりからの励ましや説得
- 体と気分:落ち着いて取り組めている状態
いちばん効くとされるのは、「自分で小さくやれた」という成功体験です。
バンデューラも、実際にやって成功する経験を最も強い源としました。
運動に関する27件の研究(計5,501人)をまとめた2010年の分析でも、同じ傾向でした。自分や似た人の成果を教えてもらう働きかけが、自己効力感を最もよく高めていました。ただ言葉で説得するだけの働きかけは、効きめが弱いほうでした。
ですから、私なら小さく試して、できた事実を自分に見せることから始めます。
今日から試す4手順
自分を励ますより、「できた」という証拠を一つずつ自分に見せる。次の4つを、上から順に試してみてください。
- 目標を、ほぼ確実にできる大きさまで削る。「参考書を1ページ」「通勤前に1ストレッチ」「家計簿を1行」でいい。小さな成功が最初の証拠になります(小さすぎるくらいでいい)
- できた日を記録する。手帳に丸、アプリにチェックでいい。過去の成果が見えると、見込みが上がります(記録するだけで行動が変わる)
- 似た立場で続けている人を1人見つける。同じ資格を勉強する同僚でも、SNSで発信している人でもいい。「あの人にできるなら」と思えると、自信につながります(まわりの行動は自分の背中を押す)
- 体の反応を「向いていない証拠」と決めつけない。プレゼン前の緊張や午後のだるさを感じたら、深呼吸や短い休憩で整えます
続けるための注意
自己効力感は、行動ごとに別々です。「職場の新しい手順は覚えられそう」でも「運動はできそうにない」は、ふつうに両立します。
一度に全部を上げようとしなくて大丈夫です。今いちばん変えたい1つの行動で、今日の「できた」を1つ作る。それが明日の「できそう」につながります。
習慣づくりを仕組みで支える考え方は、習慣づくりでもまとめています。
まずは今日、ほぼ確実にできる大きさまで目標を削って、1回だけやってみてください。
Try Today今日からやるチェックリスト
- 目標を「ほぼ確実にできる」大きさまで削り、まず1回だけやる
- できた日をカレンダーやアプリに記録し、過去の成果を見えるようにする
- 似た立場で続けている人を1人見つけて参考にする
- 緊張やだるさを「向いていない証拠」と読まない
出典・参考
- Bandura, A. (1977) Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191-215.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Sheeran, P., Maki, A., Montanaro, E., et al. (2016) The impact of changing attitudes, norms, and self-efficacy on health-related intentions and behavior: A meta-analysis. Health Psychology, 35(11), 1178-1188.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Ashford, S., Edmunds, J., & French, D. P. (2010) What is the best way to change self-efficacy to promote lifestyle and recreational physical activity? A systematic review with meta-analysis. British Journal of Health Psychology, 15(2), 265-288.pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
この記事は、上記の研究をもとに構成しています。 引用・要約は必要最小限とし、詳細は原典をご確認ください。